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福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)203号 判決

控訴人

谷口勇

被控訴人

新名平

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金九、五〇〇円およびこれに対する昭和四七年三月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分しその九を被控訴人の、その一を控訴人の負担とする。

この判決は被控訴人勝訴の部分に限りかりに執行することができる。

事実《省略》

理由

別紙目録記載の物件がもと訴外秦義雄の所有であつたこと、控訴人の申立により執行官が大阪地方法務局所属公証人依田六郎作成第五八五九六号公正証書の執行力ある正本にもとづき昭和四四年一〇月一三日右物件のうち(一)ないし(四)につき強制執行をしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば昭和四五年二月二七日被控訴人が右(一)ないし(四)の物件を競落しその所有権を取得したことを認めることができる。

被控訴人は別紙目録記載の物件(五)、(六)を右秦から贈与を受けたと主張するが、〈証拠〉をもつてしても右主張事実を肯認するに足らず、他にこれを認めるべき証拠はない。

そして〈証拠〉によれば被控訴人は昭和四五年三月一日右(一)ないし(四)の物件を秦義雄に対し昭和五五年二月末日まで賃料月額二、〇〇〇円で賃貸したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、控訴人の申立により執行官が昭和四六年一二月一〇日前同一債務名義にもとづき右(一)ないし(四)の物件について強制執行をしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば右物件の競売の日は同月二四日と定められたことが認められるところ、本件記録によれば、同月二三日被控訴人は右物件物件が被控訴人の所有に帰属するものであることを主張して右強制執行を排除するため控訴人を被告として大分地方裁判所に第三者異議の訴を提起するとともに右強制執行の停止決定を申請した結果同日同裁判所は右強制執行停止決定をし、その決定正本および右第三者異議の訴状副本は同月二六日控訴人に送達されたことが明らかである。

しかるに控訴人の申立により執行官は控訴人の前記秦義雄に対する大阪地方裁判所昭和四六年(手ウ)第一、一四三号仮執行宣言付判決にもとづき昭和四七年二月一九日右(一)ないし(四)の物件につき強制執行(照査手続)をしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば同年三月六日訴外平川秀夫が右物件を合計金九、五〇〇円で競落したことを認めることができるので、特段の事情の認められない本件においては民法第一九二条が適用されることにより右平川秀夫が右物件の所有権を取得しこれにより被控訴人は右物件の所有権を失つたものと認められる。

ところで被控訴人は右(一)ないし(四)の物件がいずれも被控訴人の競落取得したものであることを控訴人は知つていた旨主張するが〈証拠略〉によるもこれを認めるに足らず他に右被控訴人主張事実を認むべき証拠はない。従つてこの事実を前提として控訴人の不法行為があるとする被控訴人の主張は認容することはできない。しかし、前記のとおり右(一)ないし(四)の物件が自己の所有に帰属することを主張して昭和四六年一二月一〇日になされた強制執行の排除を求めるため被控訴人が控訴人を被告として第三者異議の訴を大分地方裁判所に提起し同時に右強制執行の停止決定を同庁に申請した結果控訴人は同庁から右訴状副本および右強制執行停止決定正本の送達を受けており、加えて〈証拠〉によると、控訴人は右照査手続を受けた物件が前記強制執行停止決定によりその執行が停止された物件と同一であることを知つていたことを推認できるので、控訴人としては少くとも、右異議訴訟の終了まで強制執行を停止するなど相当の措置をとるべき注意義務があるというべきところ、控訴人はこれを怠り漫然右強制執行を容認放置した過失により被控訴人は右物件の所有権を失うに至つたものであるから、控訴人は上記過失により被控訴人の権利を侵害したものというべく、これによつて被控訴人の受けた損害を賠償すべき義務がある。

よつて、その数額について検討するに、上記のとおり訴外平川秀夫は本件物件を金九、五〇〇円で競落しており、右物件の評価に関する〈証拠〉は措信できず、他に右競落時の評価額を認めるに足る証拠のない本件においては被控訴人の受けた損害は右同額と認める。

控訴人は被控訴人には本件判決の執行力ある正本にもとづく強制執行停止の措置をとらなかつた過失があると主張するが、本件のようにいつたん強制執行が停止された物件について同一執行債権者が再度別の債務名義をもつて強制執行をするがごときは当該債務者ならばともかく第三者には通常予期しえないところであつて、〈証拠〉によつても被控訴人が本件照査手続がなされたことを知つていたことを認めるには必ずしも十分ではなく、他にこれを認めるに足る証拠はないから、被控訴人が本件強制執行(照査手続)の執行停止の措置をとらなかつたことをもつて過失があるとはいえない。

控訴人は本件強制執行が終了した後において本訴請求は許されないと主張する。なるほど第三者異議の訴は目的物件についての執行を排除することを目的とするものであるからその執行自体が終了した以上執行排除を求める利益はない。しかし、その強制執行が執行債権者の不法行為となるときは従前所有権にもとづき強制執行の排除を求めていた請求を損害賠償の請求に変更することは請求の基礎に変更もないのでもとより許されるところであり、本件被控訴人の請求はまさに右により変更された損害賠償の請求であつて訴の利益を欠くことにはならない。

すると控訴人は被控訴人に対し右金九、五〇〇円およびこれに対する右競落により被控訴人が損害を受けた日の翌日である昭和四七年三月七日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるので、被控訴人の本訴請求は右の限度において正当として認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

よつて、原判決は上記判断と符合しないのでこれを変更し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九六条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(池畑祐治 生田謙二 富田郁郎)

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